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東京地方裁判所 平成6年(特わ)592号 判決 1994年10月07日

本店所在地

東京都渋谷区東二丁目二〇番一四-三〇二号

東京エンジニアリング株式会社

(右代表者代表取締役 堀越繁太郎)

本籍

東京都墨田区立川三丁目一二番地

住居

東京都世田谷区成城八丁目三〇番二八号

会社役員

堀越繁太郎

大正五年一月一〇日生

主文

被告人東京エンジニアリング株式会社を罰金一〇〇〇万円に、被告人堀越繁太郎を懲役一〇か月に処する。

被告人堀越繁太郎に対し、この裁判が確定した日から三年間、右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人東京エンジニアリング株式会社(以下「被告会社」という)は、東京都渋谷区東二丁目二〇番一四-三〇二号に本店を置き、土木建築工事に関するコンサルタント業務等を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人堀越繁太郎(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三三五六万〇〇一一円(別紙1修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成元年五月三一日、東京都目黒区東山三丁目二四番地一三号(平成三年六月一九日からは東京都渋谷区宇田川町一番一〇号)所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一三一三万四四〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ、

第二  平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三五五八万三一五〇円(別紙2修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成二年五月二九日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が零で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一三三五万〇二〇〇円(別紙5ほ脱税額計算書参照)を免れ、

第三  平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四四五〇万二一一九円(別紙3修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成三年五月三一日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が七二万四〇一八円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一五六八万三三〇〇円(別紙6ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠)

(注)括弧内の番号は、証拠等関係カード記載の検察官請求番号を示す。ただし、押収番号を除く。

判示全部の事実について

・被告会社代表者兼被告人の公判供述

・被告会社代表者兼被告人の検察官調書八通

・堀越猛、松田豊、岩間知恵子及び蔵方輝二(ただし、不同意部分を除く)の各検察官調書

・大蔵事務官作成の普通預金調査書、定期預金調査書、代表者勘定調査書、関係会社勘定調査書、未納事業税調査書及び損金の額に算入した道府県民税利子割調査書

・検察事務官作成の報告書五通(甲三、九、一四、一六、二五)

・登記簿謄本

判示第一及び第二の各事実について

・大蔵事務官作成の繰越欠損金当期控除額調査書

判示第一の事実について

・大蔵事務官作成の郵便貯金調査書、未収利息調査書、過払源泉税調査書及び未払源泉税調査書

・法人税確定申告書一袋(平成六年押第七六〇号の1)

判示第二の事実について

・法人税確定申告書一袋(同号の2)

判示第三の事実について

・大蔵事務官作成の立替金調査書、未払金調査書及び申告欠損金調査書

・法人税確定申告書一袋(同号の3)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、判示第一及び第二、すなわち平成元年三月期分及び平成二年三月期分の繰越欠損金当期控除額について、被告人にはほ脱の故意は認められないと主張し、被告人もまた、被告人質問の中でそれに沿うかのごとき供述をするので、以下、検討する。

本件において、問題となっている平成元年三月期分及び平成二年三月期分の法人税確定申告書(以下「確定申告書」という)については、いずれも被告人自らこれに署名押印したことは、被告人自らこれを認めているところである。そこで、各確定申告書の記載をみると、まず、平成元年三月期分の確定申告書では、「欠損金又は災害損失金等の当期控除額」欄に、一五五万九四三四円との記載があり、その下の「翌期へ繰り越す欠損金又は災害損失金」欄に、五二九万〇一六二円の記載があるのみで、控除税額の計算の欄を除くすべての欄は空欄ないしは零の記載があるにすぎない。平成二年三月期分の確定申告書の記載もこれと同様で、「欠損金又は災害損失金等の当期控除額」に、五二一万三〇一六円との記載があり、その下の「翌期へ繰り越す欠損金又は災害損失金」欄に、七万七一四六円の記載があるのみで、控除税額の計算の欄を除くすべての欄は空欄ないしは零と記載されているにすぎない。このような確定申告書の記載内容からすると、被告人が、繰越欠損金当期控除額が存在すること及びその額について容易に認識できる状態であったことが認められる。

また、被告会社の顧問税理士である岩間知恵子の検察官調書によれば、右岩間は、被告会社の確定申告書を作成するに当たり、決算期終了後間もなく、被告会社の総勘定元帳と残高試算表などに基づいて仮決算を行い、その概要や所得額、税額等の概算額を被告人本人に直接説明して了解を得た後、決算書及び確定申告書を作成し、これについて被告人のチェックを受けた上、代表者自署押印欄に被告人の署名押印をもらい、これを所轄税務署に提出していたことが認められる。こうした確定申告書の作成経緯などからしても、被告人が被告会社の確定申告書の内容を確認していたことは充分に認められる。

さらに、被告人が右岩間から確定申告書の内容の説明を受けていたことを被告人自身認めていること(被告人の検察官調書)、被告人自身、繰越欠損金当期控除額について充分承知していたこと(大蔵事務官作成の繰越欠損金当期控除額調査書)も証拠上明らかである。

これら各事実を総合すると、被告人が被告会社の平成元年三月期及び平成二年三月期の繰越欠損金当期控除額について認識していたことは、優にこれを認めることができる。したがって、繰越欠損金当期控除額についてのほ脱の犯意もまた、これを認めることができる。

(なお、ほ脱犯の故意が成立するためにはどの程度の認識で足りるかについては見解の別れるところではあるが、本件は、そうした点の議論を待つまでもなく、被告人のほ脱の犯意が認められる場合である)

これに対して被告人が公判廷で述べている、繰越欠損金の控除について税理士から説明を受けたかどうかはっきり覚えていない、欠損金の処理については概算的なことしか考えていなかったなどの供述は、いずれも他の証拠に照らし、信用することができない。

また、弁護人は、繰越欠損金当期控除額の立証がきわめて不充分であると主張するが、関係証拠によれば繰越欠損金当期控除額は優にこれを認めることができるのであるから、その立証は充分である。

したがって、弁護人の主張はいずれも採用することができない。

(法令の適用)

被告会社の判示の各事実は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に(判示第一及び第二の各事実についての罰金刑の寡額については、刑法六条、一〇条により平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項による)該当するところ、情状によりそれぞれ法人税法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪について定めた罰金の合計額の範囲内で被告会社を罰金一〇〇〇万円に処し、被告人の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に(判示第一及び第二の各所為についての罰金刑の寡額については前に同じ)該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情に最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一〇か月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(検察官 加藤昭、主任弁護人 北武雄 各出席)

(求刑 被告会社に対し罰金一二〇〇万円 被告人に対し懲役一〇か月)

(裁判官 堀内満)

別紙1 修正貸借対照表

<省略>

別紙2 修正貸借対照表

<省略>

別紙3 修正貸借対照表

<省略>

別紙4 ほ脱税額計算書

<省略>

別紙5 ほ脱税額計算書

<省略>

別紙6 ほ脱税額計算書

<省略>

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